SCS & DCS

シングルクロス・シャント & ダブルクロス・シャント

シングル・クロス・シャント(TM)出力回路(SDAの特許)は何故造られたか、そしてその動作原理とその動作原理で造られたパワーアンプの特徴とメリット、性能などを解説します。 この回路をSCSと略記します。SCSはシングルアンプのOPTの機能からの呼称です。SCSパワーアンプは別名で「コンダクタンス型パワーアンプ」とも呼んでいます。これは、信号の伝達方法からの呼称です。さらに、SCSの動作原理から発展的に開発されたダブル・クロス・シャント出力回路(TM)の動作原理、特徴、及びメリットなどを解説し、同じく「コンダクタンス型パワーアンプ」の性能などを解説します。


シングルクロスシャント回路(SCS)

開発経緯;

シングルアンプは一般にA1シングル・エンデットと呼ばれています。このパワーアンプの出力トランス(OPT)に使われているコアーには必ずエアーギャップを設ける必要が従来のアンプにはあります。なぜならば、プレート電流が一次インダクタンスを流れるときに直流磁気飽和を起こします。磁気飽和を起こしたコアーはインダクタンスに交流信号を通しても、もはや二次側に信号を出すことはできなくなります。これを防ぎために、あえてコアーにエアーギャップを設けて磁気回路中の磁気抵抗を増加させて磁気飽和を回避しています。

しかしながら、ギャップを設けたことで新たなデメリットが大く残ってしましました、それらは出力信号に大きな歪が発生すること、及びコアーから漏れれ出す磁束が増えたことです。さらに、磁気抵抗の増加で磁束が通りにくくなるので、それを補うためにより大きなコアー材を使う必要が出てきました。そのために、出力はPPアンプに比べて小さいのに大きなコア容量を必要としOPTが大型化し、価格もPPより高いのが一般的です。

SDAではこのような理不尽さを放置することが出来なかったので、永年に亘り研究を続けてきました。そして、ついにギャップを必要としないOPTの開発に成功し、それをドライブする出力回路を作り上げました(特許)。これが、シングル・クロス・シャント(SCS)出力回路です。

そして、この回路をより有効に作動させる方法が、低圧大電流駆動方式、ゼロバイアス動作のAo動作点(特許)、電圧信号を使わずに電流信号だけを使うアンプで「コンダクタンス型パワーアンプ」と呼んでいます。


SCS回路の発見経緯;

下の回路図(pdf)は、開発経緯の発想の順序を表します。

1.シングルアンプではOPTは磁気飽和を起こす(Fig1)

2.プッシュプルのOPTは磁気飽和を起こさない(Fig2)

それは、OPT一次インダクタンスの中点から両インダクタンスに対しお互いに逆方向のDC電流を流しているからです。

これが、発想の原点です。

 


ダウンロード
A1 & AB1.pdf
PDFファイル 33.8 KB

3.プッシュプルOPTのDC打消し作用を一本の真空管でできる筈であると考えた。一次インダクタンスを二つに分けて、上側をプレートに接続、下側をカソードにFig4の通り接続する。これでは両インダクタンスの電流の向きが上向となり、A1シングルと同じになり磁気飽和を起こす。

4.次に、下側のインダクタンスの配線をクロスさせて、下側のインダクタンスに流れる電流の方向をお互いに逆方向に流れる様に接続する。

この回路で磁気飽和せずに、OPT二次側から交流信号が出る事を確認した。

この接続方法では両インダクタンスはお互いに密に結合し合っている(磁気的につながっているのでシャント状態にある)、そして下のインダクタンスの配線をクロスさせたことから「シングル・クロス・シャント」と呼称することにしました。Fig4で示すSCS出力回路は直流磁気飽和を起こさないことは理解できたと思います。次いで、どのようなアルゴリズムで交流信号が二次側に出力するかを考えまししょう。

ダウンロード
Innovative SCS.pdf
PDFファイル 30.9 KB

コンダクタンス型パワーアンプの概説

基本的な考え方;

この回路の動作アルゴリズムは今までのパワーアンプの動作概念を捨てる必要があります。それは、真空管は電圧増幅素子であるが故に、今までの管球アンプ全てに於いて電圧信号を追いかけて回路の動作を考えてきました。

しかしながら、ここで説明する「コンダクタンス型パワーアンプ」は電圧信号を使いません。電圧信号や、回路内で使われる計算式に電圧パラメータが入る因子は全て打消し作用が働き、電圧信号はOPT二次側に出力されません。

パワー管のグリッドに印加された交流信号は管球のプレート電流(カソード電流)の変化として一次インダクタンスを励起し、二次側に出力信号を発生させます。これは、入力電圧変化(eg)をプレート電流変化(ip)として利用しています。この動作は次式で表すことが出来ます;

コンダクタンス(S)=ip(A)/eg(V)で単位はSとなります。一例をあげれば入力1Vの交流信号で200mAのプレート電流変化が生じればS=0.2A/1V=200mSとなります。あたかも、Power MOS-FETと同じような働きをしている特異的なパワー増幅回路で、まったく新しい真空管理論が日本で誕生したのです。


コンダクタンス型パワーアンプの特徴

 このアンプには今までの管球パワーアンプには無かった多くの特徴・メリットがあります。まず、音楽信号の伝達には電流変化分だけを使います。交流信号電圧はOPT内部で打消し作用が働くので二次側に交流信号は現れません。この打消し作用の恩恵は管球の内部抵抗が無視されることとOPT一次側のインダクタンスも無視されます。そして残る因子はインダクタンス中のRdcだけが二次側から見えています。

このRdcは出力管(パワー管の電流帰還作用により圧縮されて二次側からは小さな値として見えています。故に、このアンプの出力インピーダンスは従来型アンプよりも遥かに小さい値になります。そのためにダンピング・ファクター

は概ね20~50程度になります。

一次インダクタンスは大きいほど低音を豊かに鳴らしてくれます、しかし反面、OPT一次インダクタンスは浮遊容量の働きで自己共振周波数が存在します。

従来のOPTの共振周波数(fr)は低音域(約150Jz付近~350Hz)に共振点がありますが、SDAの共振周波数は人の聴感度が最大の約3.5KHz付近で共振する様に設計・製造しています。この周波数は聴きやすく、心地よく聴こえる周波数です。

さらに、共振点では位相差が無いために再生される音楽が透明感のある美しい音として聴こえてきます。

加えて、SCS回路では二つ有るインダクタンスの片側はカソード負荷として接続されています。これにより、カソード電流信号により「電流帰還」が掛かります、その帰還係数は50%の大きな値になり、その作用で歪の低減、内部抵抗の低減などの好ましい作用が働き、アンプの特性向上を自動的に行ってくれます。  

 

ダブルクロスシャント回路(DCS)

開発経緯;

ダブルクロスシャント回路(DCS)はプッシュプルパワーアンプ用として新しく開発された真空管パワーアンプです(特許)。OPT内で直流打消し作用を持たせていることは従来のAB1-PP出力回路と同じですが、根本的な相違があります。

OPT一次側には四つのインダクタンスが巻かれていて、各々のインダクタンスは出力管のプレートとカソードに接続しています。DCS回路では、SCS回路と異なる接続方式を採用しています。真空管(V1)単体では接続されているインダクタンスに流れるプレート電流は順方向で、逆相接続していません。そこで、もう一方の真空管(V2)に接続のインダクタンスに流れるプレート電流は逆方向に流れる様に接続しています。球単体ではOPTは磁気飽和を起こしますが、両球で打消し合う動作をさせています。そして、インダクタンスの磁気極性は四つが全て吸引し合う様に接続しています(特許)。そひて、この回路を安定して働かせるには四つのインダクタンスが正しく同じ値でなければなければ異常動作します。そのために四つのコイルは、四本のマグネットワイヤーをしっかりと並行を保って密に巻き込む「超絶技法」のQuadfilerで巻いています(特許)。

DCS回路では、従来のAB1-PPの持つ課題を解決し、多くのメリットを持っています、それらは;①OPT内に位相差が生じない、②出力管の内部抵抗が低くなる(概ね500~1KΩ前後)、③一次インダクタンスを小さくできるので高域特性が伸びる、④周波数分解能が高くなり粒立ちの良い音を再生できる、⑤出力インピーダンスが低くなり高いDFを容易に得られる、⑥複数の一次インダクタンスが有機的に結合し仮想空間に大きなインダクタンス(M)を生成するので豊かな低音再生が可能となった、等々。

下にDCS-7350 KT88-PPのDFの実測データを示します;

(工事中)