真空管アンプ・OPTの課題


従来型OPTに内在する課題(A1-S、AB1-PP)


1.従来型OPTに内在する時定数の課題


音質に最 も影響を与えている一つのキーファクター(ネガティブファクター)は真空管アンプ内で生じる位相偏差であるとSDAスタッフは解明している。管球パワーア ンプには心臓部に当たる出力トランス(OPT)があるが(OPTを使わないOTLアンプはこのディスカッションの対象外)、真空管アンプの世界では従来か ら低音再生が難しく、OPTでどこまで低い音を再生できるかが永年に亘りオーディオメーカーやトランス製造メーカーが追及してきた課題でした。 超えなけ ればならない壁でありながら、その壁はなかなか越えられずに月日は流れ、いつ日か半導体アンプの世界に様変わりしていった。低音再生限界を下げるには大き なOPTの一次インダクタンスをプレート負荷として与える必要がある。インダクタンスを大きくするには巻き線を沢山コアーに巻き付けていくが、巻けば巻く ほど直流抵抗が増加する。さらに、インダクタンスを大きくすることで同一プレート電流でも磁気飽和の問題が発生するので自ずから限界があった。問題の一つ は、インダクタンス(H)と直流抵抗(Rdc)により時定数(T)が発生することである。時定数(Sec.)はT=L/Rで表されることは公知である。更 に、コイルを多層に巻くことで線間に浮遊容量(Sc)が生成されることも知られている。デバイスにコイルが存在すれば必ずLが、そしてCも存在する。それ らにより必ず自己共振周波数(Hz)が存在するようになる。共振周波数(Fr)の計算式は, Fr(Hz)=1/(2xπ√(LxC))で表さることは誰でも知っている式である。下に市販OPTの共振周波数の実態を表します。

 

市販OPTの時定数(sec.)の実例(LCRメータ実測);

1)Lux OY15-5,               L=150H, Rdc=160Ω, ・・・・・T=0.94sec.,

2)North America P社, L=530H, Rdc=240Ω, ・・・・・T=2.21sec.

3)Tango, 100W,            L=200H, Rdc=240Ω, ・・・・・T=0.83Sec., 

 

こ の表から読み取れることは、OPTが持つ時定数が予想以上に大きいことがわかる、概ね0.8Hz~2Hzの間に分布している。この値は、音楽信号がアン プに入力されてから低音が再生されるまでにこれだけの時間の遅れが発生していことを意味している。この影響は、中高音部がリードするメロディーの音が再生 されてから低音部(ベース音、バス・ドラム音など)が遅れて再生されることを意味している。これでは本来の音楽再生に求められる生に近い音、原音に近い音 とは云い難い。

 


2.OPT内で生じる自己共振周波数と位相偏差


OPTはインダクタンスで造られているので、巻き線間に存在する分布定数(ストレーC)が関係して自己共振周波数が必ず存在する。共振点がどこに何Hzであるかが管球アンプを作り上げた時に重要な意味を持っています。まずは、市販OPTの自己共振周波数(Fr.)を検証してみましょう;

 

共振周波数Fr.の計算式は; Fr.=1/2πx√(LxC)で求められる。

 

 従来型OPTのインダクタンスと浮遊容量;

 

 1)Lux OY15-5,               L=150H, C=5.2F, ・・・・・Fr=180Hz

2)North America P,  L=530H, C=0.59nF(*1)・・Fr.=900Hz

3)Tango, 100W,            L=200H, C=6.3nF, ・・・・・Fr.= 142Hz

 (備考: *1)の浮遊容量0.59nFはメーカーカタログ値を引用した、

Lが530Hと多い割りにCが0.59nFは小さすぎるのではないか、一桁ずれているのではと思えるが定かではない。)

 

  •   以 上の結果から自己共振周波数が140Hz900Hzの低域に分布していることが判る。 共振点ではリアクタンスXcXlの値が等 しいと定義されます。この点(周波数)では位相差の発生はなくΘ=0度である。しかしながら、共振点より高い周波数領域では容量Cが支配的になり位相がどんどん進んでいく。浮遊容量が最も小さい2)の製品の例では、20KHz15度ほど進むとメー カーデータが示したいた。このことは、浮遊容量の大きい1)や3)の製品はもっと大きな位相進みが生じていることを意味している。原音に対して位相差が大 きい場合には、音は生の音とは異なった音に聞こえる。そして、この位相進みで最も危惧すべきことは、位相の進んだ出力信号をNFBで入力に戻した場合にさ らなる不具合が発生する。この件は位相変調(FM変調)の課題で解明していく。

画像:課題を克服したSDAの世界初のトロイダルコアー・エアーギャップレスOPT

撮影:SDA広報

 


3.A1-SアンプOPTのエアーギャップ課題


なぜエアーギャップは必要であったか!

ラジオが発見され電波から音声が聞こえることに当時の人々 は驚き、喜んだことでしょう。初期のラジオはマグネチック・スピーカーを使っていたので音質が悪かった。そこで、良い音が出るスピーカーの改良が行われパーマネントスピーカーが出現しました。しかし、当初は問題に直面したはずでスピーカーから音が出なかったはずです。それは、低イン ピーダンスのボイスコイルを持つパーマネントスピーカーを駆動するためにマッチングトランス(現在のOPT)を必要としました。トランスの一次巻き線を真空管のプレート 負荷へつなぎプレート電流を流したところトランス・コアーの磁気飽和が発生してスピーカーから音は出ませんでした。そこで技術者はある考えを思い付きました、磁気抵抗を増やせば磁気飽 和が起きなくなくなるはずであると。そして、コアーを切断しエアーギャップを設けました。そして音がが出た、エアーギャップの出現です。

磁気飽和しないOPTは出現したか

但 し、技術者はこの時に考えた筈である、コアーをカットするのは暫定的処置で、いつか誰かが磁気飽和しない新しい技術でこの課題を解決してくれるだろうと。 そして、何時しか年月は大きく流れてA1シングルアンプ用OPTには恒常的にエアーギャップを設けたまま今日に至っています。そしてそれは普遍的な技術 でオーディオ界で市民権を得てしまいました、それが理不尽であっても。磁気特性の良い磁性材料を切断するという不条理に目をつぶったまま月日は何時しか70年以上が過ぎてしまいました。 A1用OPTは漏洩磁束が大きく、歪が大きい、そしてオーディオ出力は小さいのにPP用OPTと比べてシングル用は姿は大きく、価格も高いのが一般的です。この本質的な課題にSDA[では果敢に挑戦し新しい電子回路を発見・発明して特許を取得しました。その名前をシングル・クロスシャント回路と呼びます。そして、この回路上で動作するパワーアンプを「コンダクタンス型パワーアンプ」と呼び回路内では電圧信号を使わずに電流信号だけに依存して出力信号を取り出します。


課題を解決する新技術 (SCS, DCS-PP)


1.SDAの新技術で解決する OPTの時定数の課題


SDAでは永年に亘って一般のA1-S, 及びAB1-PPアンプの音は原音とかけ離れた音がしていると認識していた。しかしながら、その解決策を探し求めてきたが、なかなか解が見つからなかっ た。時定数を小さくするにはLをRに対し小さくすることは容易に理解できるが、しかしながら、Lを小さくした場合には低音再生限界が上昇してしまう新たな 課題が出てきてしまい、本質的な解決にはならない。これは、A1-Sアンプは一次インダクタンスが一つだけなのでその値の大小が直接影響を直接受けてしま う。課題の解決策として複数のコイルを巻くことで克服できると考え実験検証を繰り返し、ついに克服に成功し特許を取得した。

課題を克服した 技術の骨子は、SDAのシングルアンプ用OPTには一次インダクタンスが三本(基本形は2本)で構成されている(Lは0.18H~0.25H程度)、そのうち二本はプレート負荷とカソード負荷に使用し、三本 目はスクリーングリッド(G2)に接続し、独立巻き線方式のUL回路として実効的なULが掛かる様にした。課題を解決したアルゴリズムは、インダクタンス が三本存在することでインダクタンス間に複数のミュウチュアルコンダクタンス(相互コンダクタンス)(M)が多階層に生成されることを利用している。Mの 単位はHで仮想空間に生成されるインダクタンスである。コアーに巻付けたコイルは三つで、実像のインダクタンスL1,L2,及びL3が出来る。そして、 ミューチュアルコンダクタンス(M)は仮想空間に存在する、換言すれば虚像と言える。その生成アルゴリズムは、まず、L1~L3相互間には三個のM1が生成 される、これを第一階層のミューチュアルコンダクタンスと呼び、M1a, M1b, M1cと名付ける。更に、M1a~M1cとL1~L3のそれぞれの間に第二階層のミュウチュアルコンダクタンスが生成され、これをM2と呼び、 M2a~M2iと名付ける。生成されるM2数は9個になり、第一階層と第二階層のMの総和は12個になる。

コイルのインダクタンスは巻き数 (N)の二乗に比例することは公知である。これよりインダクタンスの合計はLo=L1xN(二乗)で表すことが出来るので、理論上で Lo=0.25(H)x(2の12乗)=1024Hの大きなインダクタンスが生成されることになる。但し、三番目のコイル(G2に接続)はIg2が小さい(約20~30mA) ので、このコイルが関係して生成されるM1の持つエネルギーは小さく、実効的な低音再生の寄与度は低いと考えられる。実質的には理論上でM総数の20%程度が有 効利用できていると考えるべきである。故にLo’(H)=Lox(20%の二乗)=40Hとなりる。この値は、OPTを実測した周波数特性の低域特性を良く反 映しているし、一般市販のA1・SのOPTの値に近く、ここで導入した思考アルゴリズムは正しいと考えれれる。

ここで時定数に関係するインダクタンスに注目すると、実態のあるL1~L3のインダクタンス内には残留直流抵抗Rdcが内在し、時定数に関係する。

SDAが製造したOPT(SDA-OPT7311)の実例を挙げると、一次インダクタンスは0.25Hであり、直流抵抗Rdcは4.5Ωである。これを時定数の計算式に代入すると時定数は; 

                        T=0.25(H)/4.5Ω=0.056sec.となる。

こ の数値0.056sec.は有意に従来型OPTより小さいと言える。そして実際の音楽に対し0.056秒は音楽ニュアンスに影響を与えていないし、聴感に影響を与えていないと考えられる。故に、SDAのOPTで音楽を再生すると生の音・原音に限りな近い音、更に高位相特性から音像定位性に優れ、リスナーの眼前で演奏者が奏でている様にスピーカーから聴こえてきます。これをSDAではSound-Field Appearenceアンプと呼んでいます。

 


 2.SDA・OPTの自己共振周波数の実態


 SDAのOPTの一次インダクタンスは0.25H付近に設定して制作しています。従来型OPTと比較して2桁~3桁も低く作られています。

自己共振周波数は一次インダクタンスのLと、コイル間に生じる浮遊容量のCの値で決まりますが、左の欄の計算式に代入して計算してみます。LCRメータでの実測値のL=0.25H, C=2.93nFを計算式に代入するとSDA-OPT7311のFr.は;

 

Fr.=1/2πx√(0.25H x 2.93nF)=4.4KHz

 

計算の結果、共振周波数Fr.は4.4KHzと高い値を示した。この共振点以上では位相が進むが、進角は僅かで、高音域での位相差はほぼ無視できることになりSDAのアンプは高い聴感の音を再生してくれることになります。共振周波数が4.4KHzに在ることは、聴感上で重要な意味を持っています。それは、人の聴覚の聴感は周波数に対しフラットではなく最大聴感感度の周波数3.5Hz付近を中心に放物線状のカーブを描く。その曲線は「聴感等感度曲線」と呼ばれていて、健常人では3.5KHz付近の音を最も感じやすくなっています。その周波数にOPTの共振周波数を合わせることで、そこでは位相差をゼロにできるために、再生音は綺麗に、美しき聴えるこえてきます。SDAのOPTが.4.4KHzに共振点があることは非常に重要なことです。 聴感等感度曲線を下に示します。

 

聴感等感度曲線(ISO規格)

  出展:独立行政法人、産業総合研究所

 

 


3.SDAが提案するエアーギャップレスOPT


純電流駆動型シングルクロスシャント・シングルアンプ

A1アンプ用OPTでエアーギャッ プの無いOPTは作れないかとSDAでは概ね40年以上に亘って課題の克服を模索してきました。そして、AB1-PPのOPTにはエアーギャップが無いことに注目しました。それはOPT一次巻き線(センタータップ型OPTもあ る)が二つあり、それらに直流電流を打ち消すようにプレート電流を流し、交流電流は合成する様に働かせています。この動作アルゴリズムと同じ方法をシングルアンプの一本の 出力管でも可能なはずであると思考して、検証実験を続けててきました。

課題の解決までには長い時間がかかりましたが、あるきっかけで課題克服の糸口を見つけました。その糸口とは、従来から真空管は電圧増幅素子であるという真空管理論に縛られて、出力回路の動作アルゴリズムを電圧信号で追跡してきました。この概念を捨て去ることから始めました。電圧信号を扱わずに、電流のみに着目して信号経路のアルゴリズムを考えることで課題を克服しました。OPTの一次側に二つ のインダクタンスを巻き、それらにプレート電流とカソード電流を流し、巻き線の極性を正しく接続して直流電流の打ち消しを行わせます。そして音楽信号である交流信号は同相になるように磁気極性をそろえることでOPTから出力信号を取り出すことに成功しました。電圧は打ち消されて電流だけを利用する純電流駆動型アンプが完成しました(特許)。 さらに、電流だけに依存して交流信号を伝達する新しい電力増幅器には大きな付加価値があることも発見しました。それは、SDAのコンダクタンス型パワーアンプ(純電流駆動式アンプ)において、ある計算式に電圧パラメータが存在するとその計算の解はゼロになることです。例えばrpの算出、インダクタンス内に誘起する交流電圧などは全てゼロとなります。この新発見の理論(純電流駆動式アンプ)が大きな付加価値を生んでくれました。(DFのページへ)。